2023年1月26日木曜日

映画「レジェンド&バタフライ」演奏音源提供に寄せて

 



信長と濃姫のあの心抉る名場面!にヴォーカル・アンサンブル カペラが演奏で参加することができて、誠に光栄です。演技する画面の俳優さんたちの実際の歌声をカペラが録音しました。そういうことで姿は登場しませんが、じっくり聴いていただけますとうれしいです。


映画の中で演奏された音楽とその収録


ジョスカン・デ・プレのミサ曲

歌っているのはまさに戦国時代まっただ中の、西洋ルネサンス音楽(15、16世紀)です。その時代を代表する巨匠ジョスカン・デ・プレがミサのために作曲した音楽「ミサ曲」で、曲の正式な名称は『聖母のミサ』Missa de beata virgineから「キリエ」です。キリエはミサというカトリック教会の儀式の最初の部分で神に罪のゆるしを求める祈り ”Kyrie eleison”(キリエ エレイソン)「主よ、あわれんでください」です。いわゆる多声音楽(ポリフォニー)で、一つの旋律がちょうど「カエルの歌」を複雑にしたような仕方で重なっていきます。この場面ではその旋律の元になった中世以来の単旋律聖歌「グレゴリオ聖歌」と交互に演奏されていきます。


収録・撮影



そういうわけで、俳優さんたちがすぐに歌えるような代物ではありませんので、訓練と経験を積んだヴォーカル・アンサンブル カペラのメンバーが映像とは別途に音源のみを収録しました。そして俳優さんたちがその音源に合わせて演技をしたわけです。音楽監督である私、花井哲郎が京都は太秦(うずまさ)の俳優会館で3日間みっちり演技指導しました。NHKの朝ドラ「カムカムエヴリバディ」に登場したあの道場です(朝ドラでの再現性がとても高いのでびっくり)。このミサ曲は何しろ「ポリフォニー」で、全員が同時に歌い始めるわけではないので、自分の歌うタイミングを覚えてもらわないといけなかったわけです。

実際の撮影は京都で山奥に作られた壮大な「岐阜城」のセットで行われました。1月、極寒の山中に監督の怒声が響きわたる緊迫の撮影現場。でもこのシーンの撮影はその日のごく一部ですのでひたすら暖に当たり、キムタクたちの演技を見守りながらながら待つこと数時間、やっとミサの場面の撮影始まり、私が姿が映らない場所から指揮をして無事終えることができました。

実は撮影に使ったのは練習用の仮の音源で、最終版は後にきっちりと録音し直しました。ところが実際に監督が採用したのが、演奏者としては「仮」のつもりだった最初の音源だったのです。完璧に仕上がった録り直し音源ではなく、ラフな録音の方がその場面のイメージに近かったのかもしれません。


プロフィール

ヴォーカル・アンサンブル カペラは1997年に結成以来グレゴリオ聖歌とルネサンス時代の主に宗教音楽に特化して演奏、CD録音などの活動を続けています。通常は古楽に造詣の深い8人の歌手がアカペラで歌います。使用する楽譜は15、16世紀に作られたオリジナルの楽譜で、発声や発音を始め当時の演奏スタイルに基づいて、古い音楽を現代に生き生きと甦らせることに努めています。特にジョスカン・デ・プレの音楽には力を入れ、残されているほとんどすべての宗教作品を演奏、また18曲あるミサ曲をCD録音しています。ミサなどの典礼の形を演奏会プログラムに取り入れ、教会の豊かな響きの中で歌うことで、音楽の持つ高貴な精神性を伝え、癒やしの響きを届けることを目指しています。

ルネサンスの宗教音楽は一般的には「合唱」と捉えられますが、当時は現代のような指揮者と合唱団という形があったわけではなく、数名の歌手が一つの大きな楽譜を囲んでアンサンブルをしながら演奏しました。リーダーは一緒に歌いながらリードします。演奏場所はコンサート・ホールではなく教会の祭壇の前、司祭が司式をする典礼の場です。

実際に今回の演奏で使った楽譜です

この時代の楽譜は計量記譜といって、現代の楽譜の元になる古い形です。楽譜はクワイヤブックと呼ばれ、大きな楽譜を一つ譜面台にのせ、その見開きにはソプラノ、アルト、テノール、バスのパートがそれぞれ別々にパート譜として記されています。これを見ながら、密集隊形でお互いの声を聞き合いながら、緻密に音楽を組み立てていくのです。

映画の中では4人の聖職者が横一列に並んで歌っていますが、実際の演奏はそのようにクワイヤブックを囲むようにして行われたわけです。ヴォーカル・アンサンブル カペラの音源収録でも、スタジオの中ではありますが、ルネサンス時代と同じような形で歌いました。


2023年1月12日木曜日

【期間限定公開】カペラ1月公演プログラム・ノート

プログラム・ノート


公開終了いたしました。
ヴォーカル・アンサンブル カペラの今後の情報は以下公式サイトでご覧ください。

http://www.cappellajp.com/